治療説明

顎関節症の背景と治療法

顎関節症は、顎関節周囲の痛み、顎関節の雑音(口を開け閉めしたときにカクカクと音がする)、口が開きづらいといった3大症状が現れます。
これらの症状が単独で現れたり、複数出現したりします。  

症状の強さは、個人差があり、病気の経過は川の流れのごとく、激しく症状が出る時期(急流時)と症状が一時的に消失したり、または軽度の症状のままゆっくりと進む時期(河口近く)があります。

顎関節症の最大の原因は、かみ合わせの異常だと考えています。
かみ合わせ異常とは、顎のずれ(全身に対して下顎の位置異常)と、咀嚼時の下顎の動きが悪かったり、歯軋り、くいしばり癖で、異常な力が顎関節にかかった場合などがあげられます。これに、ストレス・生活習慣などが加わると、発症の引き金になることもあります。

本来の顎関節の構造は、他の関節同様に凸面と凹面で構成されており、顎関節は、下顎骨の最上部凸面を下顎頭(かがくとう)または顆頭(かとう)と呼び。
これが上顎骨のくぼみ下顎窩(かがくか)に収まっています(図1・2参照) 関節窩と顆頭は骨でできているため、関節円板(かんせつえんばん)という大きな靭帯が(図2参照)、両者の間に介在することで、咀嚼や会話を行なう時、顆頭がスムーズに動けるよう働いています。顆頭と関節窩の位置関係や異常咀嚼運動が崩れることで顎関節症が現れます。

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顎関節の形態と動きを車の車輪にたとえると理解しやすくなります。左右の顆頭は車輪で、関節円板がタイヤで、下顎窩(かがくか)がタイヤスペースにあたります。左右の車輪は車軸でつながっています。ヒトも同じように左右の顎関節の顆頭も下顎骨でつながっています。
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顎ずれなどから顎関節症になると車輪が正しくタイヤスペースに収まらず、車輪を包むタイヤがタイヤスペースに常にこすれた状態となり、運転することで(咀嚼することで)タイヤに徐々に亀裂が入り痛んできてきます。〈図4〉
タイヤが傷んだ状態を、顎関節周辺の筋肉の痛みとイメージして下さい。
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次に雑音についてお話します。まず正常な開閉口の顆頭と関節円板の動きを理解してください。お口が閉じた時も、開いた時も常に顆頭の上に関節円板が乗っかっています。
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顎関節症の原因は顎のずれ・異常な咀嚼運動が関与していることをお話しました。顎ずれにより顆頭が斜め後方に押し込まれることで、お口を閉じた時、顆頭の上に位置する関節円板が前方にずり落ちた状態となっています。まだこのステージは、口を開け始めると前方にずれ落ちていた関節円板は、正常時の顆頭の上に戻ってくれます。前方に落ちた関節円板が顆頭に乗っかるときに、ガクッと雑音がします。〈図6参照〉これが関節雑音の背景です。雑音のする位置や音の大きさも様々です。
この状態を歯科医学で、復位性関節円板前方転位(ふくいせいかんせつえんばんぜんぽうてんい)といいます。
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車のタイヤに例えると、車が停止している時(口を閉じたとき)は、車輪からタイヤがはがれ落ちかけた状態となり、走りだすとタイヤが車輪に巻き戻ってくれます。このはがれたタイヤが車輪に巻き戻るときの音が顎関節雑音とイメージして下さい。実際は、ちぎれたタイヤが走り出すと元に戻ることはありませんが、、、涙

もう少し補足しますと、関節雑音にも2種類あります。上記した復位性関節円板前方転位と最大開口時(お口を大きく開けた時)の雑音です。この最大開口時の雑音は、関節円板の問題でなく、最大開口時の場所の下顎窩(かがくか)と顆頭の骨の形態的な不一致で起こる音で、将来的にも問題はでません。音が鳴らない範囲で生活も十分可能ですから気にする必要のない雑音です。

復位性関節円板前方転位からさらに病気が進行すると前方に落ちた関節円板が開口時でも元に戻らず前方に落ちたままとなり、関節円板が邪魔をして、口を開けようにも1センチ程度しか開かなくなり、食事をすることもままならない状態となります。同時に強い痛みを伴うこともあります。〈図7参照〉
この状態をクローズドロック(非復位性関節円板前方転位)といい、強い痛みが数日から数週続く方もいらっしゃいます。急性期を過ぎると少しずつ口は開いてきますが、元の開閉口量に戻ることはありません。慢性期に移行すると大きく口が開けられない、口を開けた時まっすぐ開かない、などの症状が残り治療の難位度は更に上がります。
車にたとえますと車輪からはがれたタイヤが走り出しても元に戻らず、車輪にからまったままで車はスピードがでないし、タイヤもどんどん変形している状態となります。
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骨(顆頭自体)に起因する問題も生じてきます。恒例の車輪に例えますと顎ずれで車輪がタイヤスペースにこすられた状態が続くと車輪本体が変形します。これを骨の変形とイメージして下さい。
顎関節症患者の50%に骨の変形があるという報告があります。とげのように尖った骨やクレーターのように凸凹になった骨など様々な形に変形します。
骨の変形も車輪をタイヤスペース内に正しく戻すこと、すなわち顎ずれを治すことで、時間はかかりますが骨も改善します。(リモデリングが起こるといいます。)


最後に治療の話をします。
最初にお話しした川の流れのどの位置にあるのかを診査・診断しておくことが大変重要となります。
顎関節周辺の筋肉の痛みは、比較的簡単に治ります。雑音症状を軽減させることは容易ですが、完全に音を消すというのは、難位度の高い治療となります。

顎関節症になってしまったということは、ほぼすべての患者さんで顎ずれ(全身に対して下顎の位置異常)が起こっています。したがって治療法は、顎関節症の治療イコール顎ずれ治療となります。ただし、復位性関節円板前方転位の治療で、全身症状は、考えずに円板の復位のみに重点を置く場合は装置の種類が変わります。
車にたとえると車軸のずれを正しい位置に戻すことでタイヤスペースが確保でき、タイヤも傷つかず円滑な運転が可能となります。

顎ずれの説明はHPの『なぜ顎ずれ治療は大切なの?』をお読みください。
ここでは簡単に説明します。
1キロの重さの下顎は、頭の前下方にぶらさがっているため、この位置がずれると下顎の重さで頭を前後・左右に引き倒す力となります。
頭の位置を安定させようと首周りの筋肉が緊張して首コリが起こります。首の筋肉の中を走る脳に栄養と酸素を送る頚動脈が圧迫され、脳血液量が不足して脳細胞が正常に働かなくなります。感情や免疫、ホルモンバランス、自律神経、運動能力など人間生活に支障をきたします。顎ずれは、単にあごが痛いに留まらず身体に様々な問題を引き起こします。

治療の流れ
まず、顎ずれが原因で起こる可能性の高い症状をまとめた全身健康チャートに記載して頂きます。

治療前の医療面接で全身健康チャートに書かれた症状の軽減が図られるか診査します。

顎関節症を主訴に訴える患者さんには、正しい顎の位置に誘導した際、顎関節周辺の痛い部位を強く押してもらい、筋肉の痛みが瞬時に消失・軽減するかをチェックします。また関節雑音も同時に消えるか、開口量の改善が見られるか、診査します。

治療法は、丸山剛郎大阪大学名誉教授が開発したMFA治療を用います。

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この治療法の優れた点は、顎関節症の治療に留まらず、全身の健康までも改善するところにあります。

顎関節症の症状がありましたら、まず自分がどのステージにあるかを理解しておくことがご自身の安心につながると思います。ご相談ください。